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幅7.8cm×6.5cm 高さ5.8cm
柳下季器(やなした ひでき)様による《赤ぐい呑》は、その名の通り、艶やかな朱色が目を惹く小さな器です。しかし、その存在感は決して小さくはありません。むしろ、器のサイズに反して大胆かつ力強い造形が与えられており、見る者、使う者に鮮烈な印象を残します。
このぐい呑の最大の魅力は、やはりその色彩にあります。赤とも朱ともつかぬこの色は、単に鮮やかな彩色としての美しさを超えて、熱を内に抱えたような情熱や、命の力を象徴するような深い響きをもっています。艶やかでありながら、決してけばけばしくなく、むしろ日本的な抑制の美が感じられます。それは、火と土が出会い、器として生まれたことの記憶が色として昇華された結果であり、自然の一部としての赤と、人の手が生み出した造形とのあわいに立つ美しさです。
この《赤ぐい呑》は、いわゆる茶碗のミニチュアではありません。構造としては似ていても、そこには明確な“自立した個性”が宿っています。高台や胴の作りには、ぐい呑としての道具性が強く意識されており、あくまで酒器としての役割と美を追求したかたちです。造形は、あえてわずかな歪みや揺らぎを残した意図的なものであり、完璧な左右対称を求めるのではなく、自然と手の動きの痕跡を残した「生きたかたち」に仕上げられています。こうした歪みが、器全体に野趣あふれる力強さを与え、手に取った瞬間から使い手の感覚と共鳴します。
この《赤ぐい呑》には、まさに「不易流行」の精神が静かに、しかし確かに息づいています。「不易」とは、変わらぬ本質、美意識、器としての根源的な在り方です。柳下様の作品には常に、土と火、形と用途に対する真摯な姿勢と、陶芸という営みに対する変わらぬ哲学が貫かれています。一方で、「流行」は、時代性を受け入れ、新しい感性や表現に柔軟であることを意味します。《赤ぐい呑》においては、その明快な色彩やコンパクトで力強い造形が、まさに“今”という時代に生きる器としての佇まいを映し出しているのです。元来「不易流行」は、俳諧の世界で松尾芭蕉が提唱した理念であり、永遠に変わらぬ真理(不易)と、移ろいゆく世の流れ(流行)という、一見相反する二つの概念が同時に存在するという思想です。柳下季器様の《赤ぐい呑》は、そのふたつを見事にひとつの器の中に結びつけています。
器としての完成度はもちろん、使用時における手取りの良さ、口当たり、酒との相性も非常に高く、実用に耐えるだけでなく、使うほどに味わいを深めていきます。酒が注がれ、朱の釉薬の上に反射する光がきらめくとき、器は静かに語りはじめます。その表情は、日によって、季節によって、使い手の心によっても変わっていくことでしょう。
《赤ぐい呑》は、器としての機能と美、伝統と現代、静けさと烈しさ——そうした相反する要素のあわいに生きる作品です。日々の食卓や、ひとり静かに酒を嗜む時間の中にあっても、ふとした瞬間に、器の向こうにある美意識と作家の精神が立ち上がってくる。そんな力を秘めた、小さくも雄弁な芸術品といえるでしょう。
柳下 季器(Hideki Yanashita) プロフィール
陶芸家 1967 –
東京都生まれ。現在は三重県伊賀市を拠点に活動。桃山時代のやきものに魅了され、陶芸の道へ進む。信楽での修行を経て三重県・伊賀に自ら穴窯を築窯し、「神田窯」を開窯。杉本貞光氏に薫陶を受け、侘び寂びの世界を独自の視点で深く探求しつつ、楽焼や焼締、井戸、織部など多彩な作品を制作しています。柳下氏の創作において重要なテーマとなるのは、先人の技法や精神を深く学びつつも、現代の素材や独自のアプローチを取り入れることで生まれる新たな極みへの探究です。その作品は時代に左右されない本質的な美を問いかけ、観る者をより深い芸術の世界へと誘います。
活動拠点
三重県・伊賀
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US$40
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